改正健康増進法によって日本全国の公共の場で喫煙が厳しく制限されることとなりました。各都道府県ではさらに独自で制定した受動喫煙対策条例を加えることで、自治体独自の対策を行っています。今回はどのような対策がされているのかをご紹介します。
基本となる改正健康増進法ではどのような定めがあるのか
各都道府県の受動喫煙対策条例を見る前に、まずは改正健康増進法について確認してみましょう。改正健康増進法では公共の場での喫煙の制限に関して、以下のように区分けがされています。
学校、病院、児童福祉施設等、行政機関、旅客自動車事業自動車・航空機
これらの施設は敷地内禁煙となっており、あらゆる施設の中で一番厳しい基準となっています。ただし、屋外において受動喫煙を防止するための必要な措置が取られていれば喫煙場所の設置が可能です。ここでいう旅客自動車事業自動車とはバスやタクシーを指します。
上記以外の多数の者が利用する施設、旅客運送事業船舶・鉄道
オフィスビルや商業施設、駅、電車内、船など、公共施設全般に関しても原則屋内禁煙となっています。ただし、喫煙専用室や加熱式たばこ専用喫煙室を設けることで、室内に限り喫煙が可能です。敷地内の屋外の喫煙場所設置に関しては特別規定は設けられておりません。
飲食店
飲食店も基本的には原則屋内禁煙ですが、喫煙専用室や加熱式たばこ専用喫煙室を設けることで、室内に限り喫煙が可能です。加熱式たばこ専用喫煙室では飲食もできます。また、経過措置として喫煙可能室として届け出ることで、これまでと同じように店内で喫煙が認められています。
喫煙可能室は次に当てはまる小規模店舗であれば設置可能です。
- 令和2年4月1日時点で,営業している飲食店であること
- 個人あるいは資本金又は出資の総額5,000万円以下の会社が経営しているものであること
- 客席面積が100平方メートル以下であること
これらに加えて、大企業が発行株式の1/2を有している場合は対象から除外されます。大手チェーンの直営店はほぼ喫煙可能室の設置は不可能です。
これらはあくまで経過措置なので、今後撤廃される可能性の高い枠組みです。
また、喫煙を主たる目的として利用する、喫煙目的室(店)であれば店内での喫煙が可能です。これは主にタバコ販売店やスナック、喫煙客が多い喫茶店などが対象になります。ただし、喫煙目的店及び喫煙目的室には20歳未満の入場は従業員も含めて不可となります。
喫煙室には20歳未満の入場禁止
施設内に設置した喫煙室には利用者はもとより従業員も、20歳未満の立ち入りが禁止されています。つまり20歳未満の従業員は清掃等での入室もできませんので、管理者はシフトを組む際に配慮が必要です。また喫煙目的店においてはそもそも雇用ができないということになりますし、小規模であるがゆえに喫煙が経過措置として認められている喫煙可能店においても、客席で喫煙OKの場合は20歳未満の勤務は不可になります。
つまりこれまで喫煙可能な店内で働いていた20歳未満の雇用を辞めるか、店内を完全禁煙にするか、客席を禁煙にする喫煙可能室を設けるかの3択を迫られるということになります。
喫煙室を設ける場合は標識の掲示義務あり
施設内に喫煙室を設けている場合は、その旨を標識にして掲示する義務があります。
- 喫煙専用室
- 加熱式たばこ専用喫煙室
- 喫煙目的室
- 喫煙可能室
上記4室にはその部屋であることがわかるように標識を設置します。
また、上記の喫煙室を設けている施設自体には
- 喫煙専用室あり
- 加熱式たばこ専用喫煙室あり
- 喫煙目的室あり
- 喫煙可能室あり
という標識を掲示しなければなりません。
各都道府県別の受動喫煙防止条例
さて、上記の改正健康増進法を踏まえた上で、各都道府県で独自に定める受動喫煙防止条例がどのような規制を行っているのか見ていきましょう。全体的に東日本に受動喫煙防止条例を制定している都道府県が多いです。北陸、中国、四国、九州の県には受動喫煙防止条例を定めているところはありません。ただ、今回出てこない都道府県でも、傘下の市区町村で独自に受動喫煙防止条例を制定しているところはあります。
北海道
北海道受動喫煙防止条例においては、保育所、認可外保育施設、幼稚園、 認定こども園、小・中・高校等では完全に敷地内禁煙です。屋外でも喫煙所の設置はできません。改正健康増進法では屋外に喫煙場所を設置できることになっているため、より強い制限を設けたということになります。
また、一般の事務所、宿泊施設、飲食店、 スーパー、コンビニエンスストア等に関しては、屋外に喫煙所を設置する場合「施設利用者の通行量等を考慮し、吸い殻入れ等の設置場所に配慮する」必要があります。改正健康増進法では特別決まり事はないため、一歩踏み込んだ対策を求めているといえそうです。
標識に関して、改正健康増進法では完全禁煙の場合は標識提示は特に義務ではありません。北海道受動喫煙防止条例では完全禁煙の飲食店や喫茶店は、主な出入り口に禁煙の標識を提示しなければいけません。
秋田
改正健康増進法では屋外には喫煙場所を設置できる幼稚園や学校、児童福祉施設などの敷地内は、秋田県受動喫煙防止条例において完全禁煙です。未成年を受動喫煙から守ることを徹底することが狙いです。
また、大学や医療機関、行政機関の敷地内は改正健康増進法では屋内は完全禁煙、屋外は喫煙所の設置は可能ですが、秋田県受動喫煙防止条例では屋内は喫煙場所の設置が不可、屋外は喫煙場所を原則設置できないとなっています。
駅や空港、バスターミナルなどの交通施設に関して、秋田県受動喫煙防止条例では喫煙場所の設置は不可で完全禁煙です。改正健康増進法では喫煙室の設置ができるため、より規制が強い内容となっています。
改正健康増進法では、飲食店が設置した加熱式たばこ喫煙専用室では飲食が可能です。しかし秋田県受動喫煙防止条例では「飲食可の指定(加熱式)たばこ専用喫煙室は設置しないように努めること」を努力義務として奨励しています。
さらに、完全禁煙の飲食店はその旨がわかる標識の設置も義務となっています。
山形
山形県受動喫煙防止条例では未成年の教育機関や児童福祉施設、医療機関では「屋外にも喫煙場所を設けないよう努めるものとする」とされています。禁止にはなっていませんが努力義務です。改正健康増進法よりはやや強めの規制です。
社会福祉施設や美術館、バスターミナル、金融機関、映画館など公共性の高い施設では屋内禁煙とされており「屋内に喫煙専用室を設けないよう努めるものとする」とされています。禁止ではありませんが努力義務です。
東京都
東京都受動喫煙防止条例は飲食店に対する規制が強めとなっています。従業員がいる飲食店は原則屋内禁煙となっており、これは喫煙専用室があれば問題ありません。しかし、小規模飲食店が喫煙可能店として営業する場合は、東京都受動喫煙防止条例ではオーナーかその家族以外に働いている人がいてはいけません。従業員がいる場合は完全禁煙にするか、喫煙専用室の設置が義務付けられます。また完全禁煙の飲食店はその旨がわかる標識の設置をしなければなりません。
また、小中高校等の未成年の教育機関は敷地内であれば、屋外でも喫煙場所を設置不可としています。厳密には禁止ではありませんが、強めの努力義務です。
埼玉県
埼玉県受動喫煙防止条例では飲食店の喫煙可能店に関する規制が強まっています。改正健康増進法では喫煙可能店は届出をすれば設置可となっていますが、埼玉県受動喫煙防止条例では基本的に設置不可です。それでも設置を希望する場合は従業員がいないことと全ての従業員から書面による承諾を得ることを条件に喫煙可能室を設置可能です。
改正健康増進法では条件に違反して喫煙可能店を設置した場合は50万円以下の過料となっていますが、埼玉県受動喫煙防止条例では5万円以下の過料となっています。喫煙可能店の設置自体が厳しい分、設置店に対する罰則が軽くなっています。
静岡県
静岡県受動喫煙防止条例では完全禁煙の飲食店の出入り口にその旨がわかるように標識を設置することが義務付けられています
大阪府
大阪府受動喫煙防止条例では、学校、児童福祉施設、病院、や介護老人施設など、受動喫煙により健康を損なうおそれが高い者が主たる利⽤者である施設は敷地内全面禁煙としています。改正健康増進法では屋外への喫煙場所の設置可能ですが、大阪府受動喫煙防止条例では努力義務として「屋外の喫煙場所を設置しないこと」と定めています。
飲食店での喫煙に関しては、従業員を雇用している施設での努力義務として「屋内禁煙に務めること」としています。また、経過措置としての喫煙可能店に関しては、客席面積30㎡以下の店舗が可能となっています。改正健康増進法では客席面積100㎡以下なので、より小規模なお店だけに限定されました。
兵庫県
兵庫県受動喫煙防止条例では未成年の教育機関、児童福祉施設、病院などでは屋外喫煙場所の設置を認めていません。さらに、施設の敷地周辺での喫煙も禁止しています。
また、官公庁の施設は全て完全禁煙です。喫煙専用室の設置も認めていません。
また兵庫県独自の取り組みとして妊婦の受動喫煙防止に力を入れています。罰則はありませんが、妊婦が喫煙区域に立ち入らないこと、妊婦が喫煙をしないことが条例に決まりとして明記されており、さらに施設管理者が妊婦に喫煙区域に立ち入らせないことが求められています。
岡山県
岡山県受動喫煙防止条例では飲食店の喫煙可能室に関して制限を加えています。改正健康増進法では屋内全部を喫煙可能室にすることが可能ですが、岡山県受動喫煙防止条例では屋内の全部を喫煙可能室としないよう努める努力義務を定めています。従業員の受動喫煙を防ぐための措置です。
自分の自治体の受動喫煙防止条例を要確認
受動喫煙防止条例を制定している都道府県を比較すると、特に厳しいのは秋田県、兵庫県です。公共の場所において未成年や妊婦などへ受動喫煙の被害が及ばないように条例による規制を強めています。次いで北海道が全体的に厳しめとなっており、東京都や埼玉県、大阪府は飲食店を対象に独自の規制を行なっています。他は努力義務による若干弱目の規制がされています。
今回紹介した自治体以外にも、市区町村レベルで独自の条例を実施しているところがあるため、自分が住んでいたり事業を行っている自治体に受動喫煙防止条例が設けられているのかはぜひ確認してみてください。