タバコの煙はニオイがとても不快で受動喫煙の害もあるので周囲の人から嫌われがちですが、一方で飲酒によるアルコールの影響で起こる人体や周囲の人への影響も小さくありません。
ここでは大人の嗜好品として親しまれているアルコールとタバコについて、世間からのイメージと人体への悪影響について解説していきます。
お酒は宗教や文化により扱いが異なる
日本では二十歳を過ぎれば飲酒は認められておりますが、他国では宗教上の理由によりお酒の扱われ方はさまざまです。
イスラム教徒には「ハラール食」という食事のルールがあり、豚肉とアルコールの摂取が禁じられています。
イスラム教の聖典(コーラン)には神が預言者ムハンマドに伝えた言葉が書かれていますが、コーランの5章「食卓」90節に飲酒を禁じる記載があります。
※下記引用文
引用文献
「おお、信仰する人々よ、ブドウ酒(ハムル)、賭矢(マイスィル)、偶像、占い矢は、シャイターン(悪魔)の汚濁のおこないゆえ、これを避けなさい。おそらく、あなたたちは成功するでしょう」
参考:https://turkish.jp/turkey/%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3/
もともと初期のイスラム教では飲酒は禁止されていませんでしたが、酒に酔って礼拝を忘れるため禁酒になったとされています。
飲酒によって酒に酔った状態で礼拝を行ったり宴席にて暴力沙汰が起こったりしたことで、飲酒は悪魔の行いとして禁止されていきました。
飲酒することで酔っ払いが問題を起こすため、徐々に飲酒が禁止されるようになったという経緯があります。
イスラム教では天国には酒が存在し、天国での飲酒は美味しくて悪酔いせず酩酊しないとの記載がコーランの中に記載されているので、天国での飲酒は認められていると考えられます。
参考:https://president.jp/articles/-/46476?page=3
以上の理由によりイスラム教には古くから「お酒を飲むことは悪いこと」とされており、イスラム教を信仰する国ではアルコールの飲酒が禁止されている国が存在します。
例えばアフリカ大陸のエジプトの隣にあるリビアという国ではイスラム教を信仰しており、飲酒の他に酒の製造と販売も禁じられています。
国によってはイスラム教が浸透する以前からアルコールの製造が盛んな国などでは飲酒が認められているケースもあり、国によって飲酒に対する考え方はさまざまです。
日本で馴染みがある仏教も実は飲酒が禁止されていますが、日本では宗教の信仰は自由ですしアルコールの製造や販売、飲酒は自由に行われています。
タバコは世界的に販売と使用の規制が広がっている
タバコについては宗教上の理由で喫煙を禁止しているケースはほぼ見られませんでしたが、健康上の理由で販売や喫煙を禁止している国があります。
仏教を信仰しているブータンと言う国が唯一、タバコの無い禁煙国家となっていますが、販売が禁止されていることでタバコの密輸が絶えないという問題を抱えています。
コロナ禍では密輸者からコロナが広まるという問題が上がり、感染者数を抑えるために一時的に国内でのタバコの販売を行うという措置がとられました。
国内でタバコを販売することでコロナに感染している密輸者の国内への侵入を防ぐことができるという考えです。
ニュージーランドでは法改正によって2009年1月1日以降に生まれた人は一生涯タバコが買えなくなり、2025年での喫煙率5%未満を目標としています。
マレーシアも2005年以降に生まれた若者には一生涯、タバコに関する製品の販売を禁止する方向性で動いており、早ければ2023年には施行される見通しとなっています。
ニュージーランドやマレーシアのような施策は喫煙者を減らすという意味ではかなり厳しい内容ですが、世界的に見てもタバコの販売や喫煙を制限する動きは活発化しています。
日本でも受動喫煙対策が進んでいますが国や政府からの強制ではなく、努力義務となっていて喫煙者側や施設の管理者に課せられる罰則は世界的に見ても軽微です。
改正健康増進法の施行によって不便さを感じている事業者や喫煙者はいるとは思いますが、日本は受動喫煙を減らすことを目的としていて喫煙者を減らそうとしているわけではありません。
このように、お酒などのアルコールは宗教上の理由で消費が禁止されることがありますが、タバコはほぼ健康上の理由によって販売や喫煙が禁止されています。
日本では受動喫煙対策による禁煙化は国や政府の主体で進んでいますが、アルコールによる健康被害を取り上げて飲酒を制限するような動きはありません。
もちろん飲酒運転は法律で罰則がありますし、会社員であればアルコールが体内にある状態で仕事をすることはほぼ認められないと思います。
お酒とタバコはどちらも嗜好品であり人体への影響が大きいものですが、認識に差があるように思えます。
お酒は飲んでいる本人にしか身体的な影響がないですが、対して喫煙は煙によって周囲の人達の健康を害しますので規制の対象となるのは自然です。
アメリカで過去に施行された禁酒法
アメリカでは1920年に禁酒法が施行され、アルコール製品の製造、販売、輸入、輸送を禁止するもので飲酒自体は禁止されませんでした。
これは過剰な飲酒によるアルコール中毒や飲酒が起因となった家庭内暴力や健康被害などのトラブルの発生を減少させることが目的でした。
禁酒法の施行によってアルコール製品の販売者には大きなダメージとなりましたが、消費者側は飲酒しても罰則が無いので「禁酒しよう」とはなりません。
ブラックマーケットなどで質の悪いアルコール飲料が出回り飲酒が可能となっており効果が少なかったようです。
禁酒法は多くの反発と混乱を招いた結果、1933年には廃止されビールやワインの販売が認められるようになりました。
アルコールを摂取する時の注意点
アルコールは摂取するタイミングや量、シチュエーションなどによって命に係わる危険性があります。
タバコは長期的に健康を害する一方で、飲酒は急性アルコール中毒など短時間で人体へ影響を及ぼすので注意が必要です。
アルコールを摂取する際は以下のことについて気をつけなければいけません。
アルコールと薬を一緒に飲まない
アルコールと薬を一緒に服用すると薬の効果が強く現れる場合があるので十分注意しましょう。
両者が同時に体内に入った場合、薬よりもアルコールを優先的に分解しようとするので薬が体内に長くとどまることで薬の効果が長引きます。
糖尿病の治療に使われる薬や精神安定剤などの効果が長引くとの情報がありますし、アルコールと睡眠剤を同時に摂取すると昏睡状態になることがあるので覚えておきましょう。
また逆に、常習的にお酒を飲んでいる人は薬に対する耐性が上がるため薬が効きにくくなるといったこともあります。
参考:https://www.arukenkyo.or.jp/health/proper/pro10/pro07.html
アルコールを飲むと体の機能が鈍る
アルコールを摂取すると脳や身体の機能が鈍ります。
具体的には運動神経や判断力、集中力、動体視力、体の平衡感覚が低下するので、精密な作業や的確な判断が求められる状況では思い通りの成果を出すことが非常に困難になります。
車の運転時には他車や歩行者などの動きに注意して標識や信号を正確に認識しなければいけません。
アルコールが体内に入っている状態では思考力が低下して判断が鈍り、視野が狭くなることで状況の変化への対応が遅れてしまいます。
その結果、急な飛び出しに対応できなかったり、標識の見落とし、信号無視、スピード超過などによって事故を起こしやすくなったりするわけです。
日本では法律によって飲酒運転による罰則は徐々に厳しくなっていますが、未だに飲酒運転による死亡事故は無くなりません。
血中のアルコール濃度が0.05%を超えると車の運転で事故を起こす確率が2倍に跳ね上がるようで、たとえ運転技術に自信がある人でも普段の体の状態ではないので運転してはいけません。
また、アルコールは摂取してもすぐには酔いは回らず、数十分ほど時間をかけて体を巡って脳に届きます。
参考:https://www.arukenkyo.or.jp/health/prevention/index.html
お酒を飲んだ瞬間は体に変化は無くても後から必ず酔いは回ってくるので、お酒を飲んだら運転してはいけないということです。
また、自営業者などで薬品等の危険物や回転体や挟まれ要素のある危険な機械を使用する人もアルコールによる影響で手元が狂って事故を起こす可能性が高まるので気をつけましょう。
怪我をしているときのアルコールの摂取に注意
アルコールを摂取すると血液の循環が良くなります。
切り傷などがある場合は血液の循環が良いことで出血しやすくなったり、怪我の箇所の炎症がひどくなったりする場合があります。
つまり、怪我をしているときにアルコールを摂取すると怪我の回復が遅れやすくなるということなので、怪我が治るまでは飲酒は控えた方が良さそうです。
また、運動した直後の飲酒は筋肉疲労の回復が遅くなる傾向にあるので、日常的にマラソンや運動などで筋肉をたくさん使っている方は注意しましょう。
参考:http://www.seseragi-seikotsuin.jp/blog/post65/
以上のように、アルコールは摂取してしばらくして体に大きな影響を及ぼすので、飲酒する際の禁止事項や注意点が多いです。
一方でタバコは周囲への受動喫煙の問題はありますが、喫煙者個人への喫煙時の禁止行為などはありません。
アルコールのように思考力が低下したり酔ったりしないので、仕事中やプライベート関係なくいつでも喫煙することができます。
しかしタバコの煙は発がん性物質などを発生するので、喫煙者は長期的に見るとガンなどにかかるリスクが高まります。
喫煙は健康を害するリスクが高まりますが、日本は今のところタバコはどこでも購入できますし喫煙も自由です。
喫煙はアルコールに比べて禁止行為が少ないのでいつでも手軽に楽しめますが、それ故に煙やニオイによって迷惑がられる存在でもあります。
飲酒後の運動と入浴は控えよう
飲酒すると血液の循環が良くなりますが、運動することで更に循環が早まってしまい心臓発作のリスクが高まります。
また、飲酒後の入浴によって血圧の低下が起きることで脳卒中の危険性が出てくるので気をつけなければいけません。
よって、入浴は飲酒してから時間をおいてからにするか、入浴と飲酒の間に一定時間の間隔を空けるようにすることが大事となってきます。
入浴すると汗をかきますし、体がすっきりしてアルコールが抜けるようなイメージがあるかもしれませんが逆効果ですので覚えておいてください。
タバコよりもアルコールの方が危険性が高い
アルコールとタバコはどちらも嗜好品ではありますが特性は全く異なります。
タバコは長期的に見ると発ガンなどのリスクがあり、アルコールも同様に発がん性のリスクを有しています。また、アルコールは一度に大量摂取すると体に大きな負担がかかります。
飲み会の席では飲酒する人と喫煙する人がいますが、その場では喫煙者よりも飲酒して気分が高揚している酔っ払いの方が迷惑に感じる人が多いかもしれません。
普段は普通なのにお酒を飲むと人が変わったように面倒くさくなったり気性が激しくなったりする人が一定数存在します。
飲み会の席ではそのような先輩の説教が始まったり、場合によっては喧嘩が始まったりすると周りの同僚やお客さんに非常に迷惑です。
一気飲みの強要などは完全にパワハラとなりますし、急性アルコール中毒の危険性があります。
お酒を短時間で大量に飲むと血液中のアルコール濃度が急上昇して低血圧や呼吸困難などに陥り最悪の場合は死に至ります。
ちなみにお酒に関する迷惑行為のことは「アルコールハラスメント」と表現されることがあります。
参考:https://www.arukenkyo.or.jp/health/proper/pro10/pro06.html
元々アルコールが苦手な人やアルコールアレルギーの人もいるので、飲めない人への飲酒の強要も良くありません。
飲酒を強要してアルコール中毒に至らせた場合は犯罪として処罰される可能性があります。
このように、アルコールなどは複数人で飲むと気分が高揚して盛り上がり、歯止めがかからない状態になって後で後悔することがあります。
1人で自分のペースで飲む分には良いですが、お酒が好きな人は飲酒量が多くなってしまいがちなので自制が必要です。
アルコール依存症になると治療が必要ですし、体調管理が簡単ではありません。
度々ニュースで酔っ払いが暴行や器物破損などを犯してしまう事件が放送されますが、アルコールの危険な部分ではないでしょうか。
アルコールは少量でも健康被害の可能性がある
一日に飲むアルコールの量が少量であれば健康に良いというような話を耳にしたことはありませんか。
あとは日本酒よりもワインの方が体に良いなど。
世界の195か国で実施された研究によると、1日の飲酒量が1杯程度(純アルコール換算で10g)ではアルコール関連の病気になるリスクはほとんど上がらないという結果になっています。
少量の飲酒による病気になるリスクは病気の種類によって変化します。
心筋梗塞と糖尿病は1日1杯未満の飲酒量ではリスクが下がる傾向にありますが、乳がんや結核は少量でも病気のリスクが上がるという結果になりました。
https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugawayusuke/20191217-00153544#:~:text=%E5%B0%91%E9%87%8F%E3%81%AA%E3%82%89%E8%84%B3%E6%A2%97%E5%A1%9E%E3%82%84,%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%A8%E5%A0%B1%E5%91%8A%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%80%82
上記のように少量のアルコールは健康に良いという研究がありますがは逆に少量のアルコールでも摂取すること自体が健康に悪影響を与えるという研究も進んでいます。
最近の研究では少量のアルコールでも高血圧や心臓病のリスクは少なからずとも増えるようです。
そしてアルコールが発がん性物質であることを知っている人は多くないのではないでしょうか。
米国がん協会(ACS)によると、アルコールが原因でのがんの症例は年間で75,000件以上で死亡者は19,000人ほどいるという報告があります。
参考:https://globe.asahi.com/article/14838407
昔から「酒は百薬の長」という言葉があるので毎日お酒を飲めば病気にならないかのようなイメージを持っている年配の方がいらっしゃるかもしれません。
しかし医学的に根拠はなく、逆に健康を害する可能性が高いです。
「酒は百薬の長」の由来は中国の史書
「酒は百薬の長」という言葉は中国が由来となっているもので、中国の歴史的な史書である漢書「食貨志第四(しょっかしだいよん)」に書かれていたものです。
王朝を奪い新(しん)王朝を建国した「王莽(おうもう)」という皇帝が、生活する上で必要となる「酒・塩・鉄」を国の専売制にしようとしました。
専売制というのは国家の収入を増やすことを目的に特定の物を生産・流通・販売に至るまでを国の管理下に置くことで発生する利益を独占する制度のことです。
歴史上、王莽は「中国史上最悪のペテン師」と言われるくらい悪評高い皇帝とされています。
この時、王莽が発した命令の中に酒に関する記載があります。
引用文献
酒は百薬の長、嘉會(カカイ)の好なり。酒は多くの薬の中で最もすぐれており、祝いの席に欠かすことは出来ない。
【『酒は天の美禄』であって、天子は天下の人民たちを養ってゆくものであり、神のお祭りや幸福のお祈りも、衰えた体をたすけ、病んでいる体を養うのも、酒である】という記載もあります。
引用元:http://fukushima-net.com/sites/meigen/300
上記の記述が由来となって酒を売るための理由付けとして「酒は百薬の長」という文言がキャッチフレーズとして用いられましたが、この言葉を用いた理由は不明となっています。
「酒は百薬の長」に関して、「故事ことわざ辞典」や「広辞苑」では「適量の酒はどんな良薬よりも効果がある」と記載されています。
お酒好きな方には都合の良い耳障りの良い言葉として昔から使われていたようですが、先ほど紹介したように現代では少量の飲酒でも健康を害する可能性が指摘されています。
一方で兼好法師が著した徒然草の第175段には「百薬の長とはいへど、よろづの病は酒よりこそ起れ」とあります。
意味としては「酒は百薬の長とは言うものの、数多の病は酒から起こる」となり、徒然草ではは否定的な表現で記載されています。
https://www2.yamanashi-ken.ac.jp/~itoyo/tsuredure/turedure150_199/turedure175.htm
徒然草に記載されている文言によって、適度な飲酒は健康に良いという意味の「酒は百薬の長」というフレーズが日本に定着しました。
少量の飲酒による健康被害のリスクはバランスのとれた食事と適度な運動と十分な睡眠を確保するなど、健康的な生活をすることで軽減できる可能性はあります。
このように考えると、近時、タバコのリスクへの風当たりが強くなっていますが、アルコールについても、危険な側面を有していると感じます。
タバコは喫煙ブースなどを利用して分煙対応することで周囲の人へ配慮できますし、アルコールほど禁止事項や制限もありません。
利便性や安全性を考えるとアルコールよりもタバコの方が安全に楽しめる嗜好品だと考えることもできます。
今回、ご紹介したアルコールの危険性等を認識する機会が少ないことで、アルコールよりもタバコの方が悪いイメージが定着しているように感じるのは仕方がないかもしれません。
しかし、しっかり分煙された環境を構築することでタバコや喫煙者に対するイメージも徐々に変化していくと思います。
分煙された環境であればタバコは他人に危害を加えず迷惑をかけず、自分がリラックスできる嗜好品ではないでしょうか。
分煙対策は嗜好品であるタバコを取り巻く環境を良くするためにも必要な取り組みだと言えるでしょう。