2025年4月開催の大阪万博に向けて受動喫煙ゼロを目指す大阪ですが、喫煙者の排除と言わんばかりに受動喫煙の防止対策が着々と進んでいるようです。
また、2022年4月には大阪府受動喫煙防止条例により従業員を雇用する施設の屋内は原則禁煙になることが確定となりました。(または規定を満たした専用喫煙室の設置が可能)
引用元:大阪府
https://www.pref.osaka.lg.jp/kenkozukuri/judoukitsuen/
これは非喫煙者への健康に配慮したもので、職場内での望まない受動喫煙を防止することが目的です。
非喫煙者にとっては仕事中の受動喫煙が避けられるので嬉しい処置と言えますが、逆に喫煙者には耳の痛い話で肩身の狭い思いを強いられることになるのではないでしょうか。
これからは職場によっては休憩時の「ちょっと一服」すら困難になることが予想されます。
喫煙者から「喫煙者に何か恨みでもあるのか」という心の声が聞こえてきそうですが、「喫煙者」という一方的に有害物質を撒き散らす立場である以上は我慢するしかないのが現状です。
喫煙時に放出される「副流煙」は有害物質が多く含まれていて毒性が高く、周りにいる人達への健康被害は決して小さくないでしょう。
※加熱式たばこは副流煙がほとんど発生しませんが、目に見えないエアロゾルが呼出され、有害物質の「ニコチン」はたばこと同程度含まれているとされているので例外ではありません。
※参考:日本禁煙学会
http://www.jstc.or.jp/modules/information/index.php?content_id=119
非喫煙者からしてみれば職場の屋内が禁煙になることで、たばこの匂いや健康被害から身を守ることができるので大賛成といったところでしょうか。
外で喫煙した人が屋内に戻ってきた時には髪や服にたばこの匂いや有害物質が一定時間放出されるので、完全に受動喫煙を防止することができているとは言えないかもしれません。
しかし同じ空間で喫煙されるよりはかなり良くはなるのではないでしょうか。
東京オリンピック時の東京の受動喫煙対策の流れを整理
東京オリンピックの開催予定日であった2020年7月に向けた受動喫煙対策の流れを振り返ってみましょう。
東京オリンピック・パラリンピックに合わせるように、2020年4月には改正健康増進法により宿泊施設や病院、行政機関や一般オフィス、飲食店等を含む公共機関・施設は原則として禁煙となりました。
しかし現状としては完全禁煙とはなっておらず、サービス業などの施設や駅、バスターミナルなど一部では喫煙室の設置が可能となっています。(規定を満たした専用喫煙室であること)
引用元:受動喫煙対策防止強化について
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000146150.pdf
東京五輪に合わせてたばこの健康被害の警告表示の面積がたばこのケースの50%へ拡大されましたが、これは喫煙者自身に対して健康被害を訴えかける効果を狙ったものではと予想されます。
自身の健康を考えて自発的に禁煙する人が増えることを期待するものと考えられますが、たばこケースのデザイン変更のみでどれくらいの数の人たちに禁煙意識が芽生えるかの予測は難しいです。
一方で都内では喫煙スペースを撤去したり店内全域を対象とした完全禁煙化への動きが活発化しました。
東京都内の1000店のセブンイレブンでは来店客からの「灰皿を無くしてほしい」という要望が多くなったために灰皿を撤去するなどの対応に追われたようです。
こういう事態を目の当たりにすると、国民の健康意識が向上していることを肌で感じると思います。
非喫煙者の中には「健康意識」というよりも、どちらかというと「たばこの煙と匂いが嫌い」という方も多いのではないでしょうか。
ちなみに加熱式タバコは有害な煙が出ない代わりにニコチンを含んだ水蒸気が発せられ、その水蒸気の匂いが独特で嫌いな人も少なくないはずです。
ガストは2020年9月から全店で全面禁煙化をスタートさせ、サイゼリアも1000店舗が全席禁煙となり、飲食業界でも受動喫煙防止への取り組みが着々と進んでいます。
事業所では18.8%は職場内に喫煙室を設置して対応しているという現状です。
引用元:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r02-46-50_kekka-gaiyo01.pdf
それを元に予想される大阪、関西の受動喫煙対策の動き
東京オリンピックに向けた東京都内の受動喫煙対策を踏まえて、大阪では2025年に開催される大阪万博に焦点を合わせた対策が現在も進行中です。
大阪府受動喫煙防止条例の施行により、大阪府内では病院・学校・行政機関等の敷地内は全面禁煙となります。
その一方で、飲食店や事業所等は原則として屋内は禁煙とするが専用の喫煙所での喫煙は可能とする独自の取り組みがスタートします。
引用元:大阪府
https://www.pref.osaka.lg.jp/kenkozukuri/judoukitsuen/
これは大阪府民の健康を守る目的として「望まない受動喫煙」を防ぐことと共に、大阪万博に合わせて全国に先駆けた受動喫煙防止対策をすすめるというものです。
この条例は2025年までの期間に段階的に受動喫煙の防止対策が進むように計画されています。
加熱式たばこの使用者も専用の喫煙室以外では喫煙不可なので無視はできません。
引用元:大阪府受動喫煙防止条例の概要
https://www.city.sakai.lg.jp/kenko/iryokusuri/iryo/kunikara/kunikarah30/h3103.files/judokitsuen_gaiyo.pdf
既に大阪府は2020年4月には学校や病院、福祉施設や行政機関の庁舎などの「第1種施設」に分類される建物は敷地内を全面禁煙としています。
そして2022年4月からは従業員を雇用する施設は屋内禁煙になることが決定済みです。(一部の例外あり)
当然飲食店も対象なので、「食後にその場で一服」なんて事はほぼ不可能になると言っても過言ではないでしょう。
引用元:大阪府受動喫煙防止条例の概要
https://www.city.sakai.lg.jp/kenko/iryokusuri/iryo/kunikara/kunikarah30/h3103.files/judokitsuen_gaiyo.pdf
飲食店や事業所の施設管理者には受動喫煙を防止する責務が発生し、喫煙禁止エリアでの喫煙器具の排除や喫煙者に対しての注意喚起などが求められます。
また、喫煙所には20歳未満の立ち入りの禁止の標識の掲示が義務となり、違反が発覚した際には場合によって指導や過料の対象となることが決められました。
なお、この条例の適用エリアは大阪府内全域となります。
非喫煙者からすると、「いいぞ、もっとやれ!」と大賛成かもしれませんが、「たばこを吸わないとイライラする!」と日々の情緒を喫煙によってコントロールしている者にとっては死活問題と言えるのかもしれません。
「喫煙者をいじめて楽しいか?」と愛煙家の心の声が聞こえてきそうです。
食後に猛烈に襲ってくる喫煙欲求を解消したい喫煙者にとってはかなり痛い処置となりますが、決まってしまったものはしょうがないでしょう。
「周りの人や自分の健康のため」と、なかば自己暗示をかけるように従うしかないのが現状です。
また、専用喫煙室の設置と適切な管理運営、喫煙者への対応など施設の管理者にとっても頭の痛い話であるのは予想できます。
大阪府内の禁煙化が進んでいくほどに喫煙者のストレスが溜まり、逆にたばこ難民が増えそうな予感がするのは気のせいでしょうか。
その結果懸念される「たばこ難民」問題
施設や店舗内での禁煙化にともない屋内での喫煙が減る一方で、次は路上喫煙の増加が懸念されます。
いわゆる「たばこ難民」の問題です。
建物内での喫煙は難しいのはもちろん、屋外であっても数少ない喫煙所を求めて探し回るのは骨が折れます。
「それならこのまま路上で吸ってしまおう」と考える人もすくなくないと思います。
人気のないところで携帯灰皿を使用するなど、マナーを守りながら喫煙している愛煙家は多いと思いますが、路上での「たばこのポイ捨て」や「歩きたばこ」などをする一部のマナーの悪い人達がどうしても目立ってしまうのは仕方がありません。
喫煙者の悪いイメージが目立ってきた背景として、現代は動画配信サービスやSNSの普及によって昔よりもそういった情報が発信しやすく、目に留まりやすくなっているのも一つの要因だと言えるでしょう。
そのような背景もあり喫煙者のイメージはどんどん悪いものになっているので、もはや喫煙しているだけで周りから白い目で見られると言っても過言ではないと思います。
喫煙者であれば1度はそのような経験があるかもしれません。
そして「屋内の喫煙が難しいなら外で吸えばいい」と簡単に考えてはいけません。
大阪府では以前から地域限定で路上喫煙が禁止されていましたが、大阪万博を見据えて大阪市全域が路上喫煙の禁止エリアとなりました。
そして喫煙所以外の路上でたばこを吸った場合は1000円の過料が徴収されることになっています。
1000円の過料が高いか安いかは個人の主観によると思いますが、「吸ってるのが見つかっても1000円の罰金で済むのなら安いもんだ」と割り切って平気で路上喫煙しまう人もいるのではないでしょうか。
しかし大阪府では2021年には累計で2,523人が過料の処分を受けています。
引用元:路上喫煙禁止地区の処分件数
https://www.city.osaka.lg.jp/kankyo/page/0000503379.html#4
限定された地域内でもこれだけの数の違反者が出ることを考えると、大阪市内が全面禁煙になればさらに違反者が増えるのは容易に想像できます。
本気で路上喫煙による違反者を減らすには、罰金の金額を青ざめるほど大きく上げるのも一つの方法ではないでしょうか。
海外であれば、たばこのポイ捨てや禁止エリアでの路上喫煙をした場合の罰金は数万円以上となる国が多々あり、日本とは桁が違います。
たばこ自体の値段も1箱1000円を超える国が多く、日本の2倍以上の値段となっています。
日本ではたばこが安くて買いやすく、違反した場合の罰金も安いことが日本の受動喫煙対策が世界から見て遅れている要因の1つになっている可能性はあります。
一方で国や政府の積極的な受動喫煙防止活動によって禁煙化が進み、「いっそのこと禁煙してしまおう」と禁煙にチャレンジする者もいますが、「※自力での禁煙成功率は10%ほど」と決して高くはないのが現状です。
※情報元:おざき内科循環器科クリニック
時代が進むにつれて喫煙者は年々減少傾向にあるが、急激に減ることはなさそうです。
引用元:喫煙率 [国立がん研究センターがん統計]
https://www.city.osaka.lg.jp/kankyo/page/0000503379.html#4
そのため、非喫煙者にも適切な配慮をした形の分煙対応が求められる
対象施設の施設管理権限者は健康増進法の規定によって受動喫煙を防止するために、「完全禁煙」か「喫煙専用室の設置」のいずれかの対応をしなければいけません。
決められた義務への違反者は指導、勧告や、過料などの制裁対象となります。
頭を抱えるのは禁煙と喫煙のエリアを区切って経営している飲食店やスナックやバーなどの店舗ではないでしょうか。
特に居酒屋やスナックなどのアルコールを中心に提供する飲食店だと喫煙者の割合が多いので、全面喫煙にしてしまうとお客が激減してしまう可能性が出てきて売り上げに大きな影響を及ぼすことが予想されます。
これまで店内で喫煙するのが当たり前になっていた常連客に対して「今日から禁煙です」と伝えるのは心が痛むだろうし、言われた方も急なことで動揺するかもしれません。
それでも規則なので守る必要がありますが、ルールを守らない状態で現状のままの営業を続ける店舗も一定数出てくる可能性はあります。
経営規模の小さい店舗で喫煙室の設置が無理な場合は、室内禁煙または喫煙は可能ですが20歳未満は立ち入れないようにする責務が生じます。
スナックやバーなど、飲酒を目的とした客を相手にする店舗だと20歳未満の来店客は少ないかもしれませんが、居酒屋だと食事が目的で飲酒をしない未成年の人は比較的多く来店するので対応が難しいところです。
20歳未満の方の入店規制は厳しい反面、専用喫煙室の設置に頭を悩ます事業者も多いのではないでしょうか。
喫煙者には専用の喫煙室にてルールを守りながら喫煙してもらうことで、非喫煙者へ配慮した分煙対応が可能になります。
飲食店を選ぶ際にも、喫煙室が設置してあることがわかれば安心して入店することができます。
喫煙者の立場であっても専用喫煙室があれば非喫煙者から離れた空間で気兼ねなく喫煙することができるので、喫煙室の有無は重要です。
喫煙者でも非喫煙者であっても飲食店を含む施設内の分煙状況が気になることには変わりはなく、正しく分煙されているのか気になる人は少なくないでしょう。
非喫煙者への配慮もできているお店がこれから先も必要とされる時代になる
世界的に受動喫煙防止対策は加速度を増して進んでいるため、日本も足早に対策を進めていくのは自然な流れとなっています。
国を主体とした受動喫煙対策は今後も進み、規制が厳しくなることはあっても緩和されることを期待するのはもはや無意味と言えるのかもしれません。
既存の店舗は基本的に完全禁煙か専用喫煙室の設置となります。
これからは店舗の屋内外に限らず非喫煙者への受動喫煙に対する健康の配慮が当たり前という時代になります。
とは言え、店舗内を一方的に全面禁煙にしてしまうことは喫煙者の立場としては少々乱暴な対策であると言わざるを得ません。
大事なのは喫煙者と非喫煙者の両方が納得できる「共存の場」を作りあげることではないでしょうか。
データ上は年々非喫煙者が増えていますが、このまま社会から喫煙者を排除するのではなく正しく分煙して喫煙者と非喫煙者がお互いに尊重し合える環境づくりが重要ではないでしょうか。
そういった意味で、専用喫煙室の設置店舗がこれからますます必要とされるようになってくるでしょう。
専用喫煙室を設置することは非喫煙者への配慮のみではなく、喫煙者の立場を守る役割も果たすことが可能になるわけです。
喫煙室が設置されていなくて喫煙ができるかどうか不明な店舗よりも、喫煙室が設置済みでしっかりと分煙されている店舗の方が入店しやすいのは言うまでもないでしょう。
もう一度整理すると、大阪府内では2025年4月からは以下の2つの条件に当てはまる事業主は原則として「屋内禁煙」にする必要があります。
- 個人や中小規模の事業主が経営する府内の飲食店
- かつ客室面積が30平方メートル以上100平方メートル以下
そして専用の喫煙室を店内や敷地の屋外に設置する場合は以下の条件を満たす場合に国から工事費用総額の4分の3に該当する額の補助金が支給されるようになっています。
それぞれの店舗の運営状況や営業方針によって屋内の完全禁煙が難しい場合は、この制度を使って金銭的負担を少なくして喫煙専用室を設置することができるのはありがたいところではないでしょうか。
喫煙室が店舗に設置されることで喫煙者の客足の減少を抑えながら非喫煙者にも来店しやすい環境づくりが可能になります。
大阪万博が迫ってくると周辺地域の店舗などは喫煙室設置の駆け込み需要で予定していた時期よりも大幅に工事完了日が遅れることも予想されます。
大阪府内の喫煙専用室の設置が必要な店舗にはタイムリミットが迫っているので、計画を立てて早めに対処する方が良いのかもしれません。
2025年の大阪万博を控え、非喫煙者に配慮しながらも喫煙者の居場所を守れるような、両者にとって快適な店舗、地域づくりを目指す大阪府に期待したいですね。